JANZコラムエッセイ-3

“親中派”の笑顔の背後で

「親中派ラッド豪首相が路線転換?」こんな記事が6月に相次いだ。と思ったら、7月下旬にはオバマ米大統領がワシントンで「米中が21世紀を形作る」(米中戦略・経済対話会議)と中国を持ち上げた。この会議では米国側が中国の故事をスピーチに引用すれば、中国側は「イエス・ウィー・キャン」と応じるなど、いよいよG2時代という雰囲気を演出した。

親中派が強調されがちなラッド首相だが、実は初外遊した時の演説では、中国の歴史や文化を称える一方で、チベットでの人権問題の平和的な解決を目指すべきであると発言し、後で中国政府が抗議するといういきさつがあった。これに比べ今回のオバマ大統領はチベットや新疆ウイグルなどの人権問題には一切、触れずじまい。ラッド首相のほうがスジは通っていると言えるだろう。

ラッド首相が「親中派から転換」と言われる理由は次の通りだ。一つはオーストラリアが5月に公表した国防白書。このなかでオーストラリアは中国の軍備増強への懸念を表明し、将来のシーレーン防衛のために海軍力強化を打ち出した。

この後、発生したのが中国アルミの英豪系資源大手リオ・ティントへの出資問題。国益の観点からオーストラリア政府が待ったをかけ、ご破算になったとされる。この問題は中国がリオ・ティント社の上海支社の幹部社員4人を贈賄などの容疑で拘束するなど、まだ尾を引いている。

このほか、亡命ウイグル人組織「世界ウイグル会議」のラビア・カーディル主席の訪豪をめぐって、中国側が主席に入国ビザを発給しないように要請したが、オーストラリア側は応じなかった、という軋轢もあった。

オーストラリアに限らず、アフリカやカナダなどの資源をめぐって急速に手を広げ、国際政治面でも存在感を増している中国。その巨大さと強いプレッシャーがオーストラリアとの摩擦を生むに至った。

それでは、なぜアメリカは“親中派”ムードを演出しているのだろう?

よく言われるのは、米国にとって中国は世界最大の米国債保有国であり、中国が米国債を大量に売却すると米国のドル相場や金利などマーケットはガタガタになるから、という理由だ。しかし、もしそうなれば世界経済も大混乱し、中国にとっても決して得策ではない。

対中貿易赤字など米中間の経済問題ももちろん無視はできないが、なによりもアメリカが今後の世界戦略を展開するうえで、いまや中国の協力が欠かせないのが最大の理由ではないだろうか。

例えば、北朝鮮問題一つ取ってみても北朝鮮に本当に圧力を加えることが出来るのは、中国しかいない。問題は北朝鮮にとどまらない。イラン問題もある。

オバマ大統領は、破綻しつつある核拡散防止条約(NPT)を立て直すために、「核の無い世界」を目指す方針を打ち出した。インド、パキスタン、さらに北朝鮮、イランと広がる核問題に対処するためには、各国が改めて歩調をそろえ、世界全体で核不拡散→縮小に取り組む気運を作り出す必要がある。そのためにも中国の協力は欠かせない。

というのもNPTで核兵器保有を認められている米・英・仏・露・中の5カ国のうち、ロシアとの間ではすでに核保有数の削減などの交渉で歩み寄っている。独仏も冷戦構造が崩壊した今、核に執着する必要性は薄れた。現時点では中国が一番、軍備拡充に力をいれている国だからだ。

中国には沿岸と内陸の格差をはじめ解決すべき問題もあり、米中を本当にG2と呼べるのは、先のことと思われる。しかし、アメリカはG2時代に備えた枠組みに乗り出したということだろう。

しかし、こうした総論と個々の問題はまた異なる。外交折衝でやり手の中国のこと、親善の笑顔の裏で厳しいやり取りが繰り広げられることになりそうだ。